まちおしAWARD at 伊勢崎 田中元子賞
【田中元子賞】山口 洋介さん
彼女は無欲天然インフルエンサー
山口 洋介
彼女のような人は伊勢崎市にきっとたくさんいる。人と人とを自然に繋ぐ。お店をしていたりフォロワーがたくさんいるSNSをしているわけでもない。目立たないけど、でもこんな人が増えればまちが魅力的になっていくと思っている。
彼女はとにかくたくさんお店を知っている。洒落た珈琲店やランチのお店、テナントに新しく入ったお店まで。その情報源の1つは「伊勢崎フリモ」。伊勢崎フリモは伊勢崎市民の誇りであり毎月6万3千部刊行されている。伊勢崎市が約21万2千の人口だから3.5人に1冊分発行している計算になるマンモス誌。私も大好きなこのタウン誌は2014年2月の創刊後、10年のアニバーサリーを越えてパワーアップし続けている。彼女は楽しみながら伊勢崎の情報収集をして私たち家族へも伝えてくれる。
…お察しの通り、私が書いている「彼女」とは結婚17年目になる私の妻である。伊勢崎のまちを盛り上げるに相応しいが、ごくごく一般的である彼女の日常を紹介したい。
彼女は買い物から帰ってくると「今日もおばちゃんに話し掛けられた」と話すことがある。このことは、いつか何かの機会に多くの人へ大々的に伝えたかった案件である。「話し掛けられた」という自信過剰な言い方に引っ掛かっていた私が先日一緒に買い物に行くと、彼女は確かに話し掛けられていた。でも、よくよく見ると彼女が「これ安ーい」とか『イイこと』の独り言を口にしており、その言葉に近くにいるおばちゃんが反応して会話に発展していることが判明した。つまり、話し掛けていたのは彼女だった。また、2つのポイントに気付いた。一つは「呟く独り言のボリュームが人よりちょっとだけ大きい」こと。そしてもう一つは「良い中身の独り言を言っている」ことで、二つ目の方が面白い。買い物中、独り言リサーチのために改めて様子をうかがうと、その独り言は感動していたり、プチ幸福に満ちているものだった。特価品の発見時だけでなく、「ここ、たくさんお肉置いてあってワクワクしちゃう」や「あの店員さん並べ方上手!」、「せっかくだから伊勢崎産のお野菜を…あ、この(生産者さんの)人、○○のおじさんに似てる(笑)」などなど。上手く表現できないが、いわば「明るくて楽しい前向きな独り言」なのである。そんな独り言だからそれを聞いた周りの人が「そうよねー」と相づちを打つことで会話の幕が上がっていた。だがこれは単に笑い話で終わらせるにはもったいない。まちの中でこんな会話が増えれば楽しくなって人が集まり、明るく活気ある雰囲気が広がるだろう。物は考えようで、口は災いじゃなくて、賑わいの元にも成り得る気もする。
そんな彼女がつい最近「今度から伊勢崎市内の公共施設がネット予約できるようになるんだって」と教えてくれた。確かに利便性が上がるし「これは楽だよねー」と本人も言っていた。しかし、少年野球のグラウンド予約のために管理人さんの所へ行くと、日付予約をするだけなのに世間話をしたり、チームの現状を伝えたりと彼女はいつも楽しそうだった。「楽だけど楽しみがちょっと減るのか…」と、このサービスについて彼女の本心を察しながら公共施設のネット予約サイトをLINEで送ってくれた彼女に「そもそもネット予約できるのってどこで知ったの?」と聞いた。すると、やはり彼女こそ伊勢崎の「まちおしAWARD」に紹介するべき人で間違いは無かったと確信した。彼女は私の質問に対し、「伊勢崎市のLINE登録してるから」と答えた。しかも、あざとさの欠片も無く「明日は木曜だから燃えるゴミの日だよねー」という日常会話のテンションで携帯を見せながら。さらに「だから広報もココ(携帯)に来るよ」という追い打ちの一言も。伊勢崎市が大好きと言うか、伊勢崎のまちを無意識のうちに発信しながら盛り上げていっているインフルエンサーがこんなに近くにいたとは…。
妻を愛しているがこんなに彼女を褒めたことはない。だが、愛妻であることを差し引いたとしても、嫌味なく「我がまち自慢」をする彼女を尊敬している。こんな風に、何だか楽しそうに生活してる彼女のような人が増えると、かかわる人も一層楽しく生活するようになるのではないか。加えて私は、このまちには彼女のような人が実はたくさん居るんじゃないかとも思っている。まちの発展や盛り上げに目立った貢献をしているわけではないけれど、とても自然に、見返りなんて全く求めず家族や友人へ情報発信をしている人。そんな人を募ってアイデアや力を集結したらすごい化学反応が起こり、まちの取り組みを色々なところで推し、その結果さらにまちの魅力度は押し上がること間違いない!と、無責任ながら力を込めて考えたりもする。
彼女について書き終えた今、率直に楽しかった。この「まちおしAWARD」の企画と彼女のおかげで、私はまた楽しませてもらえたということだろう。
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