伊勢崎市出身、在住。
趣味は音楽鑑賞(群響ファンです)、読書、まち歩き。
子供の頃は伊勢崎神社や本光寺で遊び、神社コロッケを食べ、毎月7日は呑龍様に行き、帰りはアーケードの本屋さんで好きな本を買ってもらう…まちにはたくさんの思い出があります。
まちを作るのは人。このAWARDは、人が人を介し想いを伝えることができるステキな取り組みです。参加を機に伊勢崎に向け私ができることを見つけた気がします。
千葉 敦子
昭和生まれの伊勢崎市民なら、中心市街地と言えば「本町通り商店街」を挙げる人は多いだろう。近年はシャッターを閉める店もある一方、初市、七夕まつり、いせさきまつりといった伊勢崎三大まつりのメイン会場として現在も多くの人が訪れている。
その中でひと際目を引くのが、明治18年創業、日本茶の専門店「OCHAVA茂木園」。
ガラス張りの明るい店は、現在四代目の茂木政樹さんと宏美さんが切り盛りしている。
四代目おかみ、宏美さんの存在
茂木園の魅力は、宏美さんの存在なしでは語れない。
宏美さんは高崎市出身。県内の短期大学でインテリアやデザインの基礎を学んだ。その後住宅設備機器メーカーでオーダーメイドのシステムキッチンの設計に携わり、16年の勤務期間中に約3千件を手掛けた。働き方に疑問を感じていたものの、やりがいのある仕事に恵まれ、達成感はあった。
転機が訪れたのは34歳のとき。共通の知人を通じ、政樹さんと出会った。
当然、老舗に嫁ぐこと家業を継ぐことを理解した上で決意したと思いきや、伊勢崎のことはほとんど知らず、茂木園の商店街での立ち位置も商売に対する具体的なイメージも湧かないまま嫁いだ。結婚後は店に立つこともなく2年間の専業主婦生活。時間を持て余した宏美さんは多忙な会社員時代ではできなかったテーブルコーディネートや写真を学んだ。
そうこうするうちに店へ立つようになったが、具体的な仕事の指示はなくモヤモヤする毎日を送った。
このままでは10年先がない〜老舗改革のはじまり〜
「お客様は年配の方ばかり、商品構成も昔のまま。これでは10年先はない」初めて店を訪れたときに漠然と抱いた不安が店に立つことで膨らみ、何かを学ばなければという焦燥感にかられ専門学校でマーケティングを学んだ。
宏美さんが店に初めて提案したのは、現代のライフスタイルに合う日本茶をサロン空間で楽しんで頂くための空間「ティーグレイス」のオープン。「衣食住は洋風化、日本茶を飲まない人も増えている状況をどうにかしたかったですし、そこに今まで自分がやってきた仕事や学んできたことが役立てばいいなと思って提案しました」と当時を振り返る。
その後、茶業界専門のコンサルタントと契約し、約4年の歳月をかけて改革を行う。最初に受けた指導は、売上についての記録と検証と店に季節感を持たせること。パソコンを使う業務は、当時宏美さんしかできないことだった。古参の従業員と共にそれぞれの役割を懸命にこなした。続いての指導は、2カ月おきのイベントの実施、顧客名簿の作成、DMの発送、POPやチラシの作成というものだった。普段の営業の傍らで「新しいこと」を実践するのは至難の業で、弱音を吐きたくなることもあったそうだ。しかし継続した。とにかく指導されたことを実践し続けた。そしてこの老舗改革は、宏美さんと従業員の想いをひとつにする好機となった。
2014年、茂木園は三代目から四代目へ代替わりした。
代替わり後も改革は続き、2021年にはカフェを併設した店のリニューアル、SNSによる情報発信、銘仙茶の開発、店の駐車場の一角を使ったOCHAVAマルシェ、多目的レンタルスペース「KAZE」の運営と、宏美さんを中心に昨年まで継続的に行われた。それは、インテリア、テーブルコーディネート、写真、マーケティングと自身が学んできたことが役に立つものだった。
「老舗だからできること」
現在の茂木園の店内は、昔ながらの看板商品「雪あさま」を始めとする群馬の山や群馬ゆかりの俳人の名前を冠した日本茶がズラリと並ぶが、お茶請けにはチョコレートや色鮮やかなゼリーなど洋菓子も並ぶ。また、カフェで提供する日本茶ベースのアレンジティーを求め、若い人たちが店内で寛いでいる。店主が子供たちに美味しい日本茶の淹れ方を教えている姿を見かける時もある。
茂木園は「OCHAVA茂木園」として、創業時からの顧客サービスを継承しつつ、「三世代が集う店」を目指し、若い人がお茶に親しむきっかけづくりを模索し、実践している。
「140年の老舗だからこそできることがあると思ってます。地域のおかげで今の茂木園があるわけですし、ここを恩返しの空間にしていきたいですね」と宏美さん。さらに、「茂木園だけがよいのでは意味がなく、町全体、そしていらしたお客様みんながよくなる取り組みをしていきたいですね。」
これからのこと
宏美さんにこれからの夢を聞くと、商店街の活性化の起爆剤となるべく「銘仙ストリート」を作りたいとのこと。
座右の銘は「人間万事塞翁が馬」。
「いいことも悪いこともその物事の一面に過ぎなくて、どっちもあってよいし、すべての事象は愛から起こっていると思うんです。辛いことも避けるのではなく体験すると、そのあとにくる喜びが輝くじゃないですか。そう考えればオールOK、何が起きても動じない平常心でいます」とほほ笑む。
高崎からやってきたおかみは今、人一倍の情熱をもって伊勢崎の「まち」に向き合っている。
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○本記事:まちおしAWARD at 伊勢崎
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