経営者の輪Vol.332 いせさきFM株式会社の代表取締役「高橋忠文さん」

経営者の輪Vol.332 いせさきFM株式会社の代表取締役 高橋忠文さん

今回、お話を伺うのは、この顔にピン! と来る人よりも「声」にあー!! と思う人の方が圧倒的に多い、いせさきFMの朝の情報番組「ぱわふるモーニング」のパーソナリティを務める高橋忠文さん。いせさきFM株式会社の代表取締役でもある高橋さんに、ラジオに関わるようになった経緯、コミュニティFMのやりがい難しさ、これからの展望などをお話し頂きました。

プロフィール

高橋 忠文(たかはし ただふみ)さん

玉村町出身




跡継ぎから一転、証券マンに

「小さい頃から自分のことは自分でやる子どもだった」と話す高橋さん。子を持つ親としてはなんともうらやましい限りです。ご実家は自営業。ご両親が朝早くから遅くまで働いていたこともあり、小学校低学年から土曜日のお昼ご飯を作っていたそう。お姉さまと妹さんに挟まれた「サンドイッチの具」である高橋さんは、本音の女子トークを聞いているうちに「無駄にしゃべるより黙っていた方が吉」と考え「物静かな子」になったとか。それが今は「ぱわふるモーニング」で軽快なトークを繰り広げているのですから、人生って分かりませんね!

 

もうひとつ、高橋さんに大きな影響を与えたのが、小学生時代に始めたスキー。“家族や親せきとワイワイ、滑るのに飽きたら雪合戦”、なんて生ぬるいモノではありません。参加していたのは、スキー選手を目指す学生たちが集まるような「スキー合宿」。まずはスピードに慣れるために頂上から直滑降、というハードでヘビーな内容でした。知り合いもいない、大人ばかりの中に、1人で長期にわたって参加した経験から「どこでも1人で行き、行動するのが苦ではなくなった」と振り返ります。

 

 

中学を卒業すると、本庄東高校の理系の特待コースに進学。理系に進んだきっかけを作ったのは、昔から新しい物に敏感なご両親が購入したパソコンです。小学生時代からパソコンが自由に触れる環境。内蔵されていたゲームをすることで、興味が高まりました。今後ますますパソコンの知識が必要になってくると考え、大学は東京工科大学のメディア学部へ。同学部は、日本で最初に誕生し、メディアを体系的に学べる学部として今でも数少ない存在です。当時から、パソコンは1人に1台支給。電子出席やweb上でのレポート提出は当たり前だったそう。そんな中、高い能力を持つ仲間にも出会いました。しかし、彼らとの仲は深まれば深まるほど、力の差を感じ「とてもかなわない」と思うようになりました。

 

講義後はアルバイト、それが終わると仲間と飲みに行ったり、バイクで海に行ったりして大学生活を大いに満喫。それには、ある理由がありました。実は小さい頃からご両親に「あとを継ぐよう」と言われ続けていたため「大学の4年間は自分が好きなことをできる最後の時間」と思っていたのです。

 

しかし、いざ就職活動を始めるとご両親の口から跡継ぎの話が出ることはありませんでした。「両親は、どこかで自分と違う人生を歩んでほしいと思っていたのだと思います」と高橋さん。そう考えるとすべてに辻褄が合いました。幼少期から自分の事は自分でできるよう仕向けられたこと、大人ばかりのスキー教室に1人で参加させられたこと、個人で導入するのはまだまだ珍しかったパソコンを購入し、いつでも触れる環境にしてくれたこと。どれもが「自分に対する投資」であることに気づいたのです。

 

卒業後は、証券会社に営業職として就職。ご両親からの「投資」に感謝を示すように「必死で頑張った」と言います。新規顧客を次々と獲得し、実力を発揮していきました。ところが、金融と言うビジネスの特性もあったのでしょう。どうしてもお客さまとの話題の多くはお金のこと。そんなときに頭に浮かぶのは、深く頭をさげてお客さまを見送り、心と心の結びつきを大切にしていたご両親の姿でした。また、ご両親が再三口にしていた「お客さまあっての商売。人との関わりこそが大事」という言葉が、このときになって心に刺さり始めました。会社からは強く引き止められましたが、退職の道を選んだのです。


培った知識や技術をFMで発揮

退職後、お父さまからあることを手伝ってほしいと声をかけられます。FM局の仕事です。実はその前から、お父さまは、玉村町で「FMななみ」というコミュニティFMを立ち上げていたのです。

 

全国のコミュニティFMの8割が赤字だそうです。それなのになぜ立ち上げを? 高橋さんの問いにお父さまはこう答えたといいます。「地域の人たちへの情報提供」。特に災害があると、人々は安否情報、避難所や給水所の情報など地元に特化した情報を求めます。コミュニティFMは、地元の人たちに求められる意義のあるもの」という言葉を聞いて、高橋さんの気持ちは固まりました。

 

しかし、FMが未知の世界であることに変わりありません。そこで全国のコミュニティFMを 50局以上見学。各局でやり方が全く異なること、効率の良いやり方があることに気づきました。大学時代に学んだITの知識と技術を活用し、作業の効率化を図ったり、編集にも携わったり、新たな挑戦を始めました。

 

「成功させるためには長期で見る必要があると考えた」と高橋さん。そのためには「へこたれない、揺るがない精神、ぶれない、心が必要だと思った」と話します。

 

転機はある朝、突然に訪れます。急遽、番組のパーソナリティを務めざるを得なくなるのです。「やるしかない」と覚悟を決め、マイクの前へ。緊張のあまり番組のタイトルを言った直後「では一曲」とすぐに音楽を流したそう。未経験者が心づもりもなく、いきなりうまくやる方が珍しいのですが「今思えば面白くなかったよね」と苦笑します。事情を知らないリスナーからは辛辣な声も寄せられ「人知れず傷つきました」と声を落とします。

 

それでも「自分にできることをやろう」と、曲紹介にアーティストの情報を加えたり、時代背景を語ったりしながら独自のスタイルを作り上げていきました。


有志でいせさきFMを立ち上げ

伊勢崎市、赤堀町、東村、境町が合併したのは、2005年。それぞれのエリアの橋渡しとなるような新しいコミュニティFMをつくろう、という有志が集まり、2007年に立ち上げたのが「いせさきFM」です。

 

高橋さんが目指すのは「寄り添えるメディア」。テレビが1対多数であるのに対し、ラジオは1対1のメディアといいます。ラジオを聴きながら一人で笑ったり、突っ込んだり、考えたり。リスナーの幅が広いのもラジオの特徴です。その中で、共感を得やすく、仲間意識を持ってもらえるような番組作りをしています。

 

コミュニティFMの強みは、自分のいるコミュニティを熱く語れること。伊勢崎は外国にルーツを持つ人も多く住んでいます。外国人登録者は、大泉町が全国トップの15%、伊勢崎は6%。大泉町の半分以下ですが、両者には決定的な違いがあります。伊勢崎に住む外国にルーツを持つ人たちは、日本国籍や永住権を取得している人が多いそう。つまり、今だけでなく将来にわたって日本に住むと言う覚悟を持った人が多いことです。「そのような人たちにも寄り添い、人々をつなぐメディアでありたい」と高橋さんは考えています。

 

 

何事にも一生懸命取り組む高橋さんですが、東日本大震災から2年ほど経った時、いきなり体調不良に悩まされます。意思はあっても立ち上がることさえできず、不安に襲われました。「ラジオの仕事をやめようか」とさえ思ったそうです。その時、頭をよぎったのは「ラジオは、みんなの役に立つメディア」というお父さまの言葉でした。そしてもう一度、マイクの前に立つ決意をしたのです。

 

28歳で社長に就任。いせさきFMに寄せられる期待や希望は、想像以上に大きいと感じたそうです。それに応えようとしますが、全部を取り上げられるわけではなく「ジレンマを感じる」といいます。

 

逆に喜びを感じるのは「楽しかった」「良かった」と言うリスナーの声。絵手紙で喜びを伝えてくれる人、わざわざスタジオまで訪れてくれるリスナーもいるそうです。「ありがとう」を言葉で伝えることができるのは素晴らしいこと。限りある時間のなかで、考えをめぐらし、感謝の言葉を伝えるーー。「そのことが有難く、心が震える」と話します。

たくさんの「ありがとう」の大切さを噛み締めながら、今日もリスナーに語り掛ける高橋さん。今日も高橋さんの優しく爽やかな声で、伊勢崎の一日が始まります。


企業情報

いせさきFM送株式会社

 

◆住所/伊勢崎市茂呂町2-3551-6

◆電話/0270-26-7690

◆開局日/2008年11月28日

◆周波数/76.9MHz

◆業務内容/放送事業、各種イベントの音響担当、広告事業など


 
 

 
取材日 2023年7月



 
応援します商売人!
今こそフロンティアスピリッツを発揮せよ!

あのお店・会社のあの人を連載で御紹介します。
アイマップでは連載企画として、「応援します商売人!今こそフロンティアスピリッツを発揮せよ」と称し地域の企業人・オーナーさん達をご紹介していきます。 また次の方は、ご紹介を頂くという経営者の輪方式をとらせて頂きます(笑) この企画を通じて、少しでも地域の皆さんに地元のお店や企業、そしてそこで働く人達を知って頂ければ と思っています。またそれが僅かでも売上増やビジネスチャンスに繋がれば幸です。

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