経営者の輪Vol.312 アベハンデザインオフィス 代表の「阿部玲子さん」
経営者の輪Vol.312 アベハンデザインオフィス 代表 阿部玲子さん
今回、お話をうかがうのは、アベハンデザインオフィス 代表の阿部玲子さん。県内にはおそらく一社という展示会・見本市のブースデザインを手掛ける阿部さんに、現在に至るまでと興味深いお仕事の内容についておたずねしました。
人生の根幹を作ってくれたおばあさま
「小さい頃は母、物心がついてからは父に似てきました」という阿部さん。幼い頃は、おしゃべりでおしゃま。「口から先に生まれてきた」と言われるほど、お話が大好きだったそうです。
生まれは、伊勢崎。当時、お父様の勤務先が神奈川県横浜市だった為、3歳まで同市で過ごします。その後、お父様の独立をきっかけに、ご両親の故郷、伊勢崎に引っ越してきました。幼少期、忙しいご家族に代わって阿部さんの面倒を見てくれたのは、父方のおばあさま。自分の子どもは男の子ばかりというおばあさまにとって、初孫で女の子の阿部さんが可愛くて仕方がなかったよう。「まさに溺愛。すべてを受け入れてくれた」というおばあさま。「このときに、人生の根幹が作られた」と話すほど阿部さんに大きな影響を与えました。お料理上手で、阿部さんの好きなものをたくさん作ってくださったおばあさま。阿部さんはキッチンに座って、おばあさまが食事をつくるのをながめるのが大好きだったそうです。無条件で愛された安心感は、お母さま譲りの明るさやひょうきんさを存分に引き出してくれました。学校でも「面白い人ランキング」のトップに君臨していたと言います。
中学に入ると友達の影響で吹奏楽部に入部し、トランペットを担当。人数が少なく、1年生の時からコンクールに出場していました。1~2年の時は、西関東大会で銅賞。最高学年の3年生になる時、みんなで「今年こそ金賞」と頑張り、本当に金賞を受賞したのだそうです。「気持ちで勝ち取った金賞でした」と話すほど気合に満ちていました。しかし輝かしい成果の裏に、ちょっぴり苦い思い出もありました。同部は、2年生で副部長を務めた人が3年生で部長になることが決まっていました。ところが、阿部さんの代は、役職についていなかった阿部さんが投票で部長に選ばれたのです。副部長を務めていた友達とは親友でしたが、このことが原因で、少しずつ距離ができてしまったのです。みんなをまとめる大変さを、わずか14歳で味わいました。
進路を考えたとき、選んだのは、桐生第一高校の調理科。阿部さんを幸福感で満たした、おばあさまとのあたたかな思い出が源となった選択でした。高校時代はアルバイト三昧。当時、ブームだった雑貨店の経営を夢見て、接客にも興味を抱き、コンビニや居酒屋でアルバイトを始めました。一生懸命仕事に励む阿部さんは、お客さまから大人気。居酒屋では、地元の有名企業から指名を受けて宴会を切り盛りすることもありました。企業から「卒業したら就職を」と熱望されるほど愛される存在でした。
このころから「誰かから与えられるのではなく、自分で稼いだお金で自由に自分らしく過ごしたい」と思っていたという阿部さん。就職先として選んだのは雑貨を扱う会社の営業職でした。
展示会で自分の進む道が明確に
ところが、就職をしてみると仕事内容は想像とは異なるものだったのです。2年ほどで退職。しかし、転んでも「何か」を手に起き上がるのが阿部さんです。営業職でできたつながりから、南米の雑貨や食品を扱う会社に再就職。ここではフィリピンの有名なアイスクリームを扱っていました。自由な会社で、営業先は阿部さんの判断に任されていました。ある時、このアイスクリーム会社が展示会に出展することになり、阿部さんも日本代理店の営業担当として出展に参加することになりました。このときの経験が阿部さんの人生を大きく変えたのです。
初めて訪れた展示会は、今まで味わった見たことのない世界でした。キラキラしていて、出展者は同業者同士ではあるものの「敵」ではなく良いものを作りだす仲間として交流を深めていました。「この空間にずっと居たいと思うほど魅了されました」と振り返る阿部さん。どうしたらこの場に居続けることができるのか、と考えた末、展示会のブースづくりに携われば良いという結論に達するのです。そして国内で唯一、イベントのブースデザインを学べる専門学校への進学を決意。22歳の時でした。
貪欲に知識と技術を身に付けようとして阿部さんは、図面書きのアルバイトがあれば進んで手をあげました。このときのお客さまは、今でもビッグクライアントになっています。
卒業と同時に、国内・海外の各種イベント企画や展示場のブース制作を手掛ける国内大手の会社に入社。2か月後には自分の手がけたデザインが、実際の形になって展示会場をにぎわせました。しかし、阿部さんの心は満たされませんでした。当時、同社は完全に分業化されていたため、デザインチームはクライアントと直接やりとりすることはなく、希望は全て営業を通して伝えられました。直接やり取りできないもどかしさが、フラストレーションになっていたのです。このことに気づいた上司が「営業もやってみるか」と声をかけてくれたことで、阿部さんのために同社初のデザイン兼営業という職種が誕生したのです。お客さまの希望をしっかり受け止めて完成させるブースは、阿部さんらしい女性的な柔らかさも加わり大評判になりました。
その後、他社での経験も積み、結婚を機に退職。そしてなんと妊娠中に、独立を果たすのです。
活躍のフィールドを伊勢崎にも広げる
出産2週間前まで仕事、出産後3カ月で復帰。どんなに大変だっただろう、と思ってしまいますが、阿部さんはそうではありませんでした。お子さんの首が座り始め、ほんの少しだけお世話がしやすくなると仕事への思いがむくむくと膨らみ始めたというのです。
それに気づいたご主人が「仕事がしたいんでしょう? 始めたら?」と背中を押してくれました。時折、仕事に行き詰まって「別のことをしようかな」と弱音を吐くと「(阿部さんの)価値が下がるからダメだよ」と優しく諭してくれるご主人は、心強いメンターなのだそうです。
阿部さんの強みは、グラフィックにも空間にも強く、一体感のある空間づくりができる点。細かな点にも気づき、来場者の動きを把握したトータルな提案にも定評があります。
今、仕事の主軸は、住宅系のイベント。プライベートな展示会や、某科学系博物館の企画展も手掛けています。会場で「すごい」と目を輝かせる来場者の姿が、大きなやりがいにつながります。心掛けているのは「つなげるデザイン」。伝えたい人と見る人の架け橋になりたい、と目を輝かせます。おばあさまが、阿部さん自身をまるごと受け入れ、個性を大切にしてくださったように、阿部さんもお客さまと来場者さま、双方の思いを受け止め、大切にしながら、かたちをつくっていきます。今では、母校の専門学校でエキシビションデザインの講師も務めています。教えた事が、学生自身のフィルターを通して形になって現れる面白さを感じているそうです。
都内で活躍している阿部さんですが、「今後、伊勢崎に貢献し、伊勢崎のまちに携わっていきたい」と話します。現在、オフィスを新たに開設中。アートギャラリーを併設し、ワークショップや企画展などを開く計画。「一般の方が気軽にハンドメイドで自分の作品ができる空間にしたい」と意欲を燃やしています。今後、阿部さんの仕事ぶりが、伊勢崎をさらに明るく活気あるものにしていきそうです。
企業情報
アベハンデザインオフィス
◆住所/伊勢崎市連取町1369-9 福島連取町貸事務所 D号室
◆TEL/ 090-5196-9274
◆設立/2017年
◆営業時間/10:30~15:30、16:30〜18:30
◆休日/不定休
◆業務内容/空間設計(展示会・イベント・企画展)、グラフィックデザイン、ミニギャラリー
今こそフロンティアスピリッツを発揮せよ!
あのお店・会社のあの人を連載で御紹介します。
アイマップでは連載企画として、「応援します商売人!今こそフロンティアスピリッツを発揮せよ」と称し地域の企業人・オーナーさん達をご紹介していきます。 また次の方は、ご紹介を頂くという経営者の輪方式をとらせて頂きます(笑) この企画を通じて、少しでも地域の皆さんに地元のお店や企業、そしてそこで働く人達を知って頂ければ と思っています。またそれが僅かでも売上増やビジネスチャンスに繋がれば幸です。
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