井田　怜良（いだ　れいら）さん

伊勢崎市出身

伊勢崎市在住

墓石デザイナーとして大活躍中の井田さん。以前と変わらず、目の前にいるお客さまのために「命がけで」取り組んでいます。

いつでも元気いっぱい、アクティブな井田さんは、4年ほど前、霊園全体のプロデュースと制作に取り組みました。お墓の区画は60。同じ数だけお客さまがいらっしゃいます。井田さんに与えられた時間は、実質1年半。すべてのお客さまの対応から企画、デザイン制作、設計、設置までを手がけました。

近づいてみると刻まれた文字も違えば、書体も異なります。正面には、その方らしさを表すモチーフも施されています。好きだったお花、生前につくった俳句などさまざま。これも、井田さんが自分で鉛筆を走らせて描いたオリジナルです。このときも、すべてのお客さまに対して一球入魂ならぬ「一基入魂」で挑んだ井田さん。短期間のうちに今までにないほど多くのお客さまと向き合い、息つく間もなく集中し続けたことで「お客さまの希望を読み取る能力が高まりました」と微笑みます。

井田さんが手掛けた墓石は、特別です。顔を合わせたことのない人でも、墓石からその人となりが偲ばれ、あたたかな気持ちになります。地球の長い歴史から見たら、一人の人の人生は一瞬。生きている時間よりも、そうでない時間の方がずっと長くなるでしょう。手向ける誰かが、お墓の中に納められた方の「生前」を知らなくても、知っているように思えてきます。お墓は、単純にお骨をおさめる場所ではなく、故人の生きた証。故人だけでなく残された人にとっても大切な場所なのです。

だからこそ「自分の亡き後は、散骨でも何でも良い」という言葉を聞くのは寂しい、と話します。「この世に生まれてきたからには、必ず生まれてきた意味や価値があると思うんです」と言い切る井田さん。「命が尽きた後は何でも良いと言うものでは決してなく、やはり生きてきた証を残してほしい」と言います。

だからこそ、井田さんは「その人らしさ、そのご家族らしさ」にこだわるのです。

井田さんは、まるでマジシャンのよう。依頼されたときは「何でもいいよ」と井田さん丸投げだったご家族が、井田さんのヒアリングで自分たちでも気づかなかった思いを引き出されます。使う石のストーリーや、デザインに込められた思いを聞くうちに、少しずつ井田さんのほうに向き始め、最後は椅子から背中を離し、目を輝かせて参加し始めます。お客さまの意識も表情も180度、変えてしまうのです。

そして「お墓の仕上がりがこんなに楽しみだなんて」とうれしそうに話します。輝くような表情でこう話すご家族を見られるのは、井田さんにとって大きなやりがいです。

オリジナリティあふれる発想の源は、自然。意識の高い知人たちから「悩んだときは山へ行け」と言われたという井田さん。そのアドバイスどおり、行き詰ったときは、近隣の山へ向かいます。魂が研ぎ澄まされ、インスピレーションが高まるそう。「手助けは、自然がしてくれる」。泉から、清らかな水があふれ出るように、井田さんの奥底からアイデアがわき始めます。

フレキシブルに活動を続ける井田さんですが「いいことばかりではなかった」といいます。それでも、他人のため、みんなのためと動いたことで今までない経験をし、自分の興味があることに改めて気づいたといいます。それが法律です。

「振り返ってみると、学生時代から法律に関する講義が好きで、法律の独特な言い回しも諦めず読解しようと読み進めることができたし、判例のレポートも全く苦にならなかった」のだとか。

「この仕事をしているといろいろな相談を受けることが多いんです」と井田さん。お墓を建てることだけでなく、墓じまいに始まり、相続問題や自分の行く末のことなど、身近な人にはなかなか話せない、かといって法律の専門家に相談するにはハードルが高い、という相談が寄せられます。そこで昨年、終活カウンセラーの資格を取得。「相談者では背負いきれない問題をその道のエキスパートにつなげる事ができれば」「先々のことを少しでも気軽に相談して心の負担を減らせれば」と思っているそうです。

今後、墓石デザイナーとしての腕を磨き続けながら、就労支援につながる道も模索している井田さん。今までにない発想で、世の中を驚かせてくれる日は近くまで迫っています。

有限会社井田石材店

◆住所／伊勢崎市宮子町3499

◆電話／0270-25-5500

◆業務内容／墓石の企画・設計・デザイン・施工、補修・修理、改修、移転、リフォーム工事、クリーニングなど

取材日　2022年7月