今回、お話を伺うのは、兼希工業株式会社の代表取締役社長 細渕敦さん。おじいさまが始めた同社の3代目として生まれ、幼少期から跡継ぎと言われて育った細渕さん。ご自身のターニングポイントや自社のオリジナル商品、代表取締役としてのやりがいについて伺いました。
細渕 敦(ほそぶち・あつし)さん 伊勢崎市出身 伊勢崎市在住
旧五色温泉近くにある、スタイリッシュな建物。それが、2018年に新設した兼希工業株式会社の新社屋と工場です。働く人に喜んでもらえるように企業のブランディングを行い、事務所は働きやすいお洒落な空間を作り、工場内は、従業員の働きやすさを考えて冷暖房完備。動きやすく怪我を未然に防ぐよう動線にも配慮が施されています。 兼希工業株式会社は創業当時、石油コンロや計量米びつの製造・販売を手掛けていました。特に、コンメジャーの名前で知られる計量米びつは、設立者であるお祖父さま、細渕希八氏発案によるもの。画期的な商品として喜ばれ、全国に販路を広げていました。 お祖父様、ご両親様の時代から金属加工業を営み、現在でもアルミダイキャストの仕上げやショットブラストを加工しています。幼いころから「後継ぎ」と言われていた細渕さんは、伊勢崎工業高校機械科に進学。卒業後は、太田情報商科専門学校の後継者育成コースに進みました。その後、県内にある金属加工業の会社に入社。すべてが、金属加工を手掛ける兼希工業を継ぐことを意識した選択でした。 その一方で、中学時代から始めたバンド活動にも熱心に取り組んでいました。オリジナル曲の制作に励んでCDを作り、地方へ演奏ツアーに出かけたことも。 「チーム力の大切さ、礼儀、マナー、上下関係は、この時代に学びました」と細渕さん。新しい人たちとの出会い、作品を聞いてもらう喜びは大きなやりがいになっていました。 ある日、一人のメンバーが家庭の事情でバンド活動を続けることが難しくなりました。家族のように結びつきの強かったため、欠けたメンバーの代わりはいない、とみんな納得の上、バンドを解散することにしたのです。
そんなとき、当時社長だったお父様から急遽「戻ってくるように」という連絡が届くのです。当時、同社では金属の仕事が減少し、経営の危機に陥りました。その時期に都内で工務店を営む伯父様から、建築用の省施工パネル製作を依頼され、新しい事業部を立ち上げることになったのです。 「私は大反対でした」と細渕さん。金属加工業を継ぐために工業高校の機械科に進み、同業他社で仕事のイロハを学んでいる真っ最中の細渕さんにとって、金属加工とはまったく関係のない木材を使った建材事業の従事するのは、今までの自分自身の選択や歩みまで否定されたような気がしたのです。 しかし、伯父様が同社に求めた条件は、新事業に若い責任者を立てること。 選択肢はただ一つ。細渕さんは、勤めていた会社を辞め、兼希工業に入る決意をしました。この時の選択が、細渕さんにとっても会社にとっても大きな転換期となるのです。 その時、伯父様から手渡されたのは、つくってほしいパネルが描かれた一枚のラフ。これを形にして納めなければならないのです。納期はわずか1カ月。細渕さんは頭を抱えてしまいました。 100分の1ミリの誤差が命取りとなる金属加工に対し、1〜2ミリのズレは許容範囲。使う単位は尺、寸、分といった尺貫法。何もかも今までと違うことばかりで1からどころか、ゼロからのスタートでした。 ベテランの大工さんを紹介してもらって現場に通い、図面の書き方から学びました。会社に戻ると、当時の工場長を中心とした3人のプロジェクトメンバーと製造方法や仕入れ先について話し合い、試行錯誤を重ねる毎日。「寝る時間もないほどハードで、何が大変だったか全く記憶にないんです」と苦笑します。 また「分野は違いますが、工場長の知識と経験に助けられました」と振り返ります。がむしゃらにできることを重ね、ついに納期通りにパネルを完成させたのです。多少の不具合があったものの、伯父様から「作れたことが立派」とお褒めの言葉をいただきました。 この経験を通じて感じたのは「ゼロからイチを生み出す方々はすごいと実感した」ということ。「私の場合は、兼希工業という母体があった。これがあるのとないのでは大違いです」と細渕さん。そして「この時の経験があるから、多少の苦労は苦労と思わなくなりました」と爽やかな笑顔で語ります。
その後、伯父様の会社の急成長に伴い、受注も急増。 ところが、伯父様から今度は「パネルは、時代に合う製品。自分たちで生きる術を見つけなさい」と言われるのです。こうして細渕さんたちは自社ブランドを立ち上げて<KANEKIパネル>と名付け、他社に販売することを考え始めました。 パネルは、伯父様がおっしゃるように確かに時代にマッチしたものでした。建物の構造躯体の間にスポッとはめ込むだけで手間いらず。工期が短縮されるうえ、施工する人の技術力を問わないため品質のバラつきが防げます。現場での産業廃棄物や作業スペースも減らせます。高齢化・減少化する大工さんや職人さんの余計な仕事を減らし、大工さんならではの技術の発揮、継承、やりがいの向上をサポートします。 しかも、KANEKIパネルは、性能の高い断熱材をあらかじめ工場で施工済。構造躯体を面で支えてモノコック構造にすることで地震に強く安全な住まいとなります。 さらに、それぞれの建物の設計に対応できるオーダーメイド。現場ごとの設計図に合わせて、要望に柔軟に対応できるのです。こうして、KANEKIパネルは、オーダーメイドパネルでは全国で1〜2を争う実績をあげるようになったのです。最近では、窓サッシを組み込んだ付加価値を上げたパネルも製造。進化を続けています。 平成18年から専務取締役を務めていた細渕さんは、昨年、代表取締役に就任。代表者交代はスムーズで、携わる業務にも大きな変化はなかったといいます。変わったのは、周りの目や関わり方。社員からの声かけや、取引先からの話の内容が深いものなっていきました。 「社長業は、外から見ているのと実際では大違い」と細渕さん。社員を守ると言う重責を改めて実感したそうです。 しかし、やはり社長ならではのやりがいもあります。それは、自分で推進力をコントロールできること、新たな分野にチャレンジできること。「これも社員やお客さまあってのこと」と謙虚な姿勢を忘れません。 木材加工を行う八寸東工場、金属加工をする八寸西工場に加え、平成30年には先述のパネル加工に特化した新工場が完成。同社を支える3本の柱が確立しました。 「会社を大きくすることよりも、みんなに喜んでもらえる存在になることが目標」と話す細渕さん。息抜きは、6歳と3歳のお子さんと過ごすことです。「社員に家族、守るものが増えました」と目じりを下げながら話します。 家族の支えを力に、社員とともに新たなチャレンジを続けていきます。
兼希工業株式会社 ◆伊勢崎市日乃出町1038-38 ◆TEL/0270- 30-5800 ◆設立/1949年8月 ◆営業時間/8:30〜17:30 ◆休日/土曜、日曜 ◆業務内容/建築用省施工パネル加工、木材加工、金属加工、省力化機器製作 取材日 2022年2月
あのお店・会社のあの人を連載で御紹介します。
今こそフロンティアスピリッツを発揮せよ!
アイマップでは連載企画として、「応援します商売人!今こそフロンティアスピリッツを発揮せよ」と称し地域の企業人・オーナーさん達をご紹介していきます。 また次の方は、ご紹介を頂くという経営者の輪方式をとらせて頂きます(笑) この企画を通じて、少しでも地域の皆さんに地元のお店や企業、そしてそこで働く人達を知って頂ければ と思っています。またそれが僅かでも売上増やビジネスチャンスに繋がれば幸です。
※ご注意:本記事は上記の日付をもとに作成しています。実際にお店等に行く方におかれましては、事前に電話等で確認してからお出かけ下さい。記事と情報が異なる場合、imapは一切責任を負いませんのでご了承下さい。(記事と情報が異なる場合もありますので ご了承下さい。)