今回ご登場いただくのは、VN.インターナショナル株式会社 代表取締役の山本慶さん。昨年、取材させていただいた株式会社DS in Japan・代表取締役の山本雄次さんの弟さんです。日本にやってきたのは5歳のとき。転機となったある人との出会い。そこからガラリと変わった運命を伺いました。
山本 慶(やまもと けい)さん
ベトナム生まれ
ベトナム人のご両親、兄の雄次さんと共に、25人乗りの小さな船で、10日間かけてベトナムから香港に脱国しました。その後、難民の受入れ先として日本へやって来た慶さん。家族は、お父様の友人を頼って伊勢崎へ移り住みました。小学校のころはベトナム名でからかわれ、悲しい思いをしたこともあったそうです。最初の転機は中学生のとき。野球部で活躍し、友達が増え、学校の手厚いサポートで勉強も楽しくなってくると、本来の明るく元気な姿に戻りました。 次々と変化が訪れる中、ひとつだけ変わらないことがありました。それが、家庭内での言葉です。通常の外国国籍の方の家庭は、はじめこそ母国語で話しますが、子どもが学校や遊びの中で日本語を覚えてくると、家庭内の言葉にも日本語が混ざり始めるそうです。しかし、山本さんのご家庭内ではベトナム語オンリーと徹底。どんなに日本語が上手になっても、ご両親は家庭内でベトナム語以外を話すことを厳しく禁じていたそうです。このことが、ベトナム語と日本語を自由に操れる慶さんの核を作りました。伊勢崎興陽高校卒業後は、埼玉の自動車専門学校へ進学。整備士の資格を取得し、伊勢崎市内の鈑金工場に就職しました。1年後、友人からベトナム語の通訳を探していた人を紹介されます。それが、人生最大の転機。その後を大きく変えた恩人、株式会社コーワパートナーズの杉木 基泰さんとの出会いでした。 「相手の思いを伝えるのが通訳者」と慶さんは話します。当初、苦しんだのがこの「相手の思い」でした。「ベトナム語も日本語も流暢に話せる、しかし、相手の思いを聞き出して伝える、それが本当の通訳」と2年間、杉木社長につきっきりで相手の思いを聞き出す力を学びました。この間、兄の雄次さんと通訳の会社、VN.インターナショナル株式会社を立ち上げました。
VN.インターナショナル株式会社で社員を迎えると、慶さんの気持ちが変わり始めました。社員と社員の家族を守らなければ、という責任の大きさをひしひしと感じるようになっていきました。「通訳とは別に異なる柱を立てることで、さらに経営の安定を図ろうと思いました」と慶さん。そんな慶さんを引き寄せたのが、写真の加工でした。 技能実習生の通訳事業、CAD請負事業、高度な技術を持つエンジニアの斡旋事業と次々に新しい事業の柱を立てた慶さん。特にユニークなのが、CADを使うエンジニアの仕事です。元々、始めていた仕事でしたが、飛躍のきっかけになったのが趣味でやっていたオンラインゲーム。「たまたま」知り合ったゲーム仲間のお兄さんが、CADの技術を持った人で、あれよあれよという間にひとつのしっかりとした事業の柱ができあがったのです。
私たちが、大人になるまでに幾度となく手にする「卒業アルバム」。30年前、40年前とは違い、今のクラス写真は、目をつぶったり違う方向を向いたりする子どもはいなくて、みんなカメラ目線でとっても良い表情。これには、ちゃんと理由があるのです。それが加工の技術。何枚もとった写真の中から良い表情を選んで差し替えたり、きれいに見えるよう彩度や明度を変えたりしているのです。今は、海を越えて簡単にデータのやりとりができる時代です。そこで、画像データをベトナム側に送って加工する写真加工事業を柱とする会社を、ベトナムに設立しました。アルバムまで製作を手掛ける大阪にあるダイコロ株式会社の松本 秀作社長から「卒業アルバムは、日本だけのあたたかな文化。この素晴らしさを世界に広めたい」思いを聞いて、慶さんはベトナムで卒業アルバム文化を広める活動をさせて欲しいとお願いし、提携することになりました。現地で採用した有能なスタッフが、社会的地位を確立してさらに飛躍できるよう、学費の面倒を見て大学を卒業させたそうです。こうして育ったスタッフの活躍で、ベトナム国内にも卒業アルバムが広がり始めています。
オンラインゲームをしている人は少なくありませんが、仕事に結び付け、しかもしっかりと社会貢献のできる事業の柱にまでできる人は少ないのが現状です。なぜ、慶さんはそれができたのでしょう? ポイントは「自分のやっていることを『伝える』よう意識していたこと」。それが人の記憶に残り、次々と新たな芽を出すことにつながったのです。
現在、お世話になった杉木社長がつくる浩和グループの経営者に名を連ねる慶さん。自分自身が成長するための勉強会、研修にも随分、仲間たちと参加したそうです。そこで社会を豊かにする考え方や、相手を尊重する心を徹底的に学びました。考えが変われば、行動も変わります。慶さんは、経営理念を「社員の物心両面の豊かな人生に貢献し、お客様、社会に信頼される企業になる」と定め、その背景と合わせて明文化しました。働く目的を明確にすることで社員は、自主性をもって働き始めました。 そんな中、悲しいできごともありました。初めての退職者が出たのです。仕方がない事情があったものの、慶さんのショックは大きく、初めて役員の前で涙を見せたと言います。それでも、いや、だからこそ、慶さんは前を向き、歩き始めました。「退職した社員が、いつでも帰ってこられるような会社に」またひとつ、夢と目標ができました。 それを具現化するように、慶さんは歩み続けます。コロナ禍で人との接触が極度に制限されるようになったとき、アタマをよぎった「困ったな」という考え。しかし、すぐに発想を転換し、「リモート通訳」に乗り出しました。これがお客さまにも通訳者にも大いに喜ばれています。今以上に5Gが一般的になれば、もっと快適にサービスを提供できるはず。企業だけでなく、行政機関や協同組合など、需要はまだまだ高まりそうです。 また、今月20日には、高崎に健康と安らぎをテーマにしたベトナム精進料理の店「安樂」をオープンさせました。今、ベトナム精進料理は、本国で今大人気。使用するのは野菜、果物、ナッツ類、豆腐、キノコをなどで、肉や魚は一切使わないのに、十分な満足感が得られるよう、工夫されています。6種類のランチは「毎日食べて健康になってほしい」との思いから、サラダ、スープ、デザートまでセットになって税込み850円。調味料はベトナムのものを用いていますが、日本人の好みに合わせてお米だけはこだわりの国産を使用しています。夜は、ファミリーや女性に気軽に楽しんでほしいと、アルコールは2種類に絞って、バラエティに富んだお料理を用意。「社員の家族や子どもも、みんな自分の家族と同じ」という慶さんらしい心づかいを感じずにはいられません。
VN.インターナショナル株式会社 ◆住所/伊勢崎市宮前町17番地 TEL/0270−61-7781 取材日 2020年12 月
設立/2009年9月14日
業務内容/ベトナム・ミャンマー人技能実習生の通訳、写真加工及びCAD業務の請負、ベトナム人技術者の斡旋、飲食業(安楽:高崎市江木町332−3 フジビル1階C)
あのお店・会社のあの人を連載で御紹介します。
今こそフロンティアスピリッツを発揮せよ!
アイマップでは連載企画として、「応援します商売人!今こそフロンティアスピリッツを発揮せよ」と称し地域の企業人・オーナーさん達をご紹介していきます。 また次の方は、ご紹介を頂くという経営者の輪方式をとらせて頂きます(笑) この企画を通じて、少しでも地域の皆さんに地元のお店や企業、そしてそこで働く人達を知って頂ければ と思っています。またそれが僅かでも売上増やビジネスチャンスに繋がれば幸です。
※ご注意:本記事は上記の日付をもとに作成しています。実際にお店等に行く方におかれましては、事前に電話等で確認してからお出かけ下さい。記事と情報が異なる場合、imapは一切責任を負いませんのでご了承下さい。(記事と情報が異なる場合もありますので ご了承下さい。)