経営に、人材育成に、人付き合いに…。日々精進を続ける経営者たち。 8人目にあたる今回は、はた農園の 畑 裕樹さんをお訪ねしました。
<経営者の輪 番外編>では、前回、取材をしてから、役職が変わったり、事業を拡大したりと、新たなチャレンジを続ける経営者をご紹介します。
畑 裕樹(はた・ひろき)さん
前回のご登場から最も変化を遂げた人と言っても間違いないと言えるのが畑さんです。当時は人材派遣業に携わっていましがた、トマト農家に大変身を遂げていました。 「前職で頻繁に工場を訪れるうちに、自分の中にあった『ものづくり』への憧れがむくむくと湧き上がってきました」と話す畑さん。 「種を植え、栽培〜収穫、そして販売まで、すべてのプロセスに携わることができるのが農業、究極のものづくりは農業ではないかと思うようになりました」と言います。さまざまな種類がある農産物の中で、選んだのがミニトマトでした。一番の理由は、計画が立てやすいこと。非農家出身で、新規就農者である畑さんは、基盤がありません。忙しいときに必要な人材を確保しようにも、生産計画が立てられないのでは、欲しいときに欲しい人手を確保することができません。スムーズに農業を営むことを考えると、計画性はとても大きな要因でした。 転身1年目は、情報取集。2年目になって、赤堀のミニトマト農家で経験を積みながら、群馬農林大学校に通って知識を習得しました。その合間を縫って、農地探しに翻弄。今でこそ、非農家出身者のための新規就農支援がありますが、当時はそのようなシステムはありません。農家とは農地を持った人であり、農地を持った人が農家、つまり新規就農者が入り込む余地は皆無でした。先祖代々、大切に受け継がれてきた土地を他人に貸すことに抵抗を感じていた農家さんが多く「決して意地悪で言っているのではないのはわかった」そうですが、結果的に農地を借りることができずにいました。 突破口を切り開いてくれたのは、一人の男性でした。あるとき、県が主催した農業系の会議にオブザーバーとして出席した畑さん。会議終了時に、農業に対する思いや現状を語ると、その一人の男性が「どうにかしよう」と手を挙げてくれました。その男性は、畑さんが修業をしていた赤堀の農家の知り合いで、畑さんのことを聞いて知っていたのです。その男性が、山王町の農家との間を取り持ってくれ、無事に畑を借りることができました。就農を志してから2年以上が経っていました。
ようやく農地が借りられたものの、毎年のようにいろいろなことが畑さんに襲い掛かってきました。夏に苗を植えた1年目。その3月に東日本大震災が起こり、風評被害を受けました。2年目は市内を襲った豪雨でハウスが水没。3年目は原因不明の生育被害に見舞われ、4年目は大雪でハウスが全壊。ようやく軌道に乗り始めたのは6年目を迎えてからでした。 「山王町の人たちに支えられて今があります」と話す畑さん。周囲の農家は、トマトやキュウリの栽培がメイン。ミニトマトを栽培に携わる人はいません。 近隣に住むベテランのトマト農家から「ミニトマトのことは分からない」と言われたこともあります。しかし、ある日のその方がふらりと訪れ「昨日の夕方、何をしていた?」と尋ねてきたそうです。「消毒をしていた」と答える畑さんに「夕方消毒をすると、トマトは病気になりやすくなる」とアドバイスをしてくれました。
ある方は畑さんのビニールハウスに建ち寄り「明日の朝は、何度になるだろうなぁ?」と独り言のようにつぶやいたそうです。調べると、ぐっと気温が下がる予報。「明日の朝は冷えるから、〇〇した方がいいよ」と直球のアドバイスではなく、考えるヒントをくれたそうです。
また、爆音を響かせて走ってくる軽トラックが、畑さんのビニールハウス前になると急に減速。姿は見えませんが「周囲の方が気にしていてくださっているのが感じます」と畑さんは笑顔を見せます。そして地域の人たちの不器用ながらも深い愛情を感じ「山王町の人に恩返しができるよう、頑張りたい」と話します。
畑さんのモットーは「お客さまの手元に届くまで、安心、安全であること」。品種の選定や肥料選びなど、すべてがそこから派生するといいます。 畑さんが天塩にかけたミニトマトは、農協や農協の直売所、生協、契約した会社に出荷。天敵を考えたり、微生物の働きを生かしたりしてできるだけ農薬を使わない工夫をしていますが、ある取引先から、幾つかのよく知られる農薬の使用をとりやめる要望が寄せられました。 同時に、あることに気づきます。「お客さまの喜ぶ顔を想像して生産者が生産すると、バイヤーも喜んで買ってくれる、それが販売店につながり、最終的にお客さまの手元に届く。笑顔の連鎖は続きます」。 畑さんは「伊勢崎市青年農業者の会」を立ち上げ、会長に就任。メンバーは、イチゴ、セロリ、キュウリ、ブロッコリーなどさまざまな生産農家で、定期的にあつまって勉強会を開き、失敗や成功を共有。同じ失敗を回避しながら、みんなで成長を目指しています。 来年はイスラエル生まれのミニトマトのテストを開始予定。商工会議所青年部の会長になることも決まっています。畑さんの新しい年、新しい挑戦が始まろうとしています。
「百聞は一見にしかず。実際に自分で見聞きすることは、文献やインターネットで調べることの何百倍ものことを得られる」と畑さん。就農1年目は、トマトの産地である熊本に3〜4回も足を運んだそうです。
「農家の生計を立てることが最優先」と理解を示してくれたものの、使用を中止しなければ取り引きは出来かねる、と言われてしまいます。何も見ずにひとつひとつ答える理由の中には、農家の健康被害も含まれていました。その真摯な姿勢に心を打たれた畑さんは「できる方法」を模索。試行錯誤の末、求められる方法での栽培を可能にしました。「厳しい課題をクリアすることで成長できる」経験を通して畑さんはこう話します。
逆もまた真なり。連鎖の源となる生産者として、気持ちを抜くことはできません。
モットーは「理由のある農家」。今までそうだったから、ではなく「やり方一つとっても、なぜ? と意味を考え、実践を大切にしています。目的は視野を広げ、知識や士気を高めること。志の高い人は、高い志を持つ人たちとつながり、輪が広がります。
はた農園 ◆住所/伊勢崎市除ヶ町412-5 2019年12月
◆TEL/0270-31-2828
◆業務内容/ミニトマトの栽培・販売
あのお店・会社のあの人を連載で御紹介します。
今こそフロンティアスピリッツを発揮せよ!
アイマップでは連載企画として、「応援します商売人!今こそフロンティアスピリッツを発揮せよ」と称し地域の企業人・オーナーさん達をご紹介していきます。 また次の方は、ご紹介を頂くという経営者の輪方式をとらせて頂きます(笑) この企画を通じて、少しでも地域の皆さんに地元のお店や企業、そしてそこで働く人達を知って頂ければ と思っています。またそれが僅かでも売上増やビジネスチャンスに繋がれば幸です。
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